戦後腹ぺこ時代のシャッター音

7月 22

やっと図書館で予約していた本を取ってきました。で、やっぱり初めに読んだのが赤瀬川原平なのです。

「戦後腹ぺこ時代のシャッター音」(岩波書店)は、終戦直後に岩波が刊行していた「岩波写真文庫」を、赤瀬川が当時の自身の体験と共に振り返ったものです。

岩波写真文庫は終戦直後の日本の社会を写真という形で切り取り、その切り取られた日本の内実を、赤瀬川が言葉で切り取っていきます。敗戦に打ちひしがれながらも、貧しさにあえぎながらも歩き出した日本人の姿がとても新鮮です。

現代は簡単にきれいな写真が誰にでも取れる時代になったのですが、当時は全てを手動で調節し、それから暗い暗室で面倒な現像を行っていました。当時の写真は暗室という神秘をくぐりぬけた存在であり、それゆえ現在よりもずっと無骨な力強さがありました。

被写体も、全てがブラックボックス化し、不可視かつ取替え可能なものの集合体となってしまった現代とは、全く違っていました。例えば当時の汽車には石炭を炊く構造が、ほとばしる蒸気、黒い煙、躍動するピストン、全てがむき出しで見えていました。そのような重厚で神々しい汽車がになう旅の記憶を、赤瀬川は写真と共に振り返ります。

知らなかったのですが、赤瀬川は子供時代を北九州の門司や大分で過ごしたのですね。赤瀬川が最近門司駅に降り立ったときに、この駅の構内が昔とほとんど変わっていなくて、広い構内にタイル張りの洗面所がずらりと昔のままにあることに感動したことが、書かれています。でもこれは赤瀬川の勘違いで、古いままの駅は実際は門司駅ではなくて、門司港駅です。

僕は北九州出身なので、門司港駅周辺のことは良く分りますが、ここには昔のままの風景が保存されています。それは単に歴史とかレトロとかいう価値ではなく、いくつもの「記憶」が保存されているということなのです。せめてこの駅にだけは「駅ナカ」を作って欲しくないですね。

この本には、汽車以外にも様々な被写体のシャッター音が保存されています。さらに「岩波写真文庫」の復刻も検討されていると書いてありますので、もう出版されているかもしれません。ぜひ見てみたいです。