旅芸人のいた風景

沖浦和光の「旅芸人のいた風景」(文春新書)

筆者の沖浦和光は1927年の生まれで、昭和に入って最初の世代です。この本はその筆者が幼い頃見た旅芸人の回想から始まります。それから旅芸人や香具師達の系譜をたどっていくのですが、何と言っても面白いのは、最初の回想の部分です。

筆者が子供の頃最初に住んでいたところが摂津の西国街道沿い(現在の大阪北部)であり、それから紀州街道沿い(現在の大阪南部)に移り住みます。それらはいずれも旅芸人や渡世人が良く通る道であり、既に明治は遠くなっていたとはいえ、日本の古代から面々と連なる「道々の者」が往来する古い風俗が残っていたようです。

特に摂津は修験道で名を知られた箕面山のふもとにあり、筆者は虚無僧や六部、山伏が行き来し、芝居の一座や旅芸人が行きかう中で少年時代を過ごしたのでした。そして沖浦和光は日本の基層的文化の一部を構成していた最下層の人々の最後の姿を目撃した証人の一人として、彼らの風俗、文化をつぶさに書き記していきます。

このような旅芸人や香具師は祭りの日に、普段は退屈な時間が流れる田舎の村を訪れ、そこをハレの異空間に変えるのですが、沖浦が記すそのような「ワタリ」の人々の有様は興味深く、また滅び行くものに特有の悲哀を感じさせます。沖浦は彼のライフワークとして、日本各地に残るそのような漂白の人々の風俗を記録していくのですが、彼が善光寺で見たおそらく最後の「蝦蟇の油売り」の老香具師の芸など、一度で良いから見てみたかったな、と思います。

ということで、またまた「滅びつつあるもの」の世界に浸ってしまった次第です。

読書

Posted by artjapan