浮世絵に見る江戸の子どもたち

「浮世絵に見る江戸の子どもたち」(くもん子供研究所)

この本は子供を描いた浮世絵を集めたものです。僕はよく知らなかったのですが、春信、北斎、歌麿、広重、北尾重政等、当代きっての浮世絵師たちが、こぞって子供の遊戯絵を手がけていたのです。この本の素晴らしいところは、とても多くの浮世絵を掲載していること、そのほとんどが摺りが良く、カラーであることです。

それにしても江戸の子供たちのなんと楽しそうなことだろう。江戸では四季の移り変わりに合わせ、様々な祭り、行事が行われていたのですが、子供たちは大人達の間隙をぬうように走り回り、凧揚げ、こま回し、相撲、いたずら、そしてごっこ遊びに興じてます。

江戸を訪れた外国人が口をそろえて言っていることは、日本人がとても子供をかわいがるということです。掲載された浮世絵の多くが母子のスキンシップを描いたものです。そして子供たちはとにかくよく遊ぶ。もちろん浮世絵の中の子供たちは遊んでいる途中も弟や妹の世話をしていますし、7歳頃から寺子屋で手習いをします。でもその寺子屋の様子がとても楽しそうなのです。もちろん江戸の教育を取り戻せなどというつもりはありませんが、路で遊ぶ子供が消えうせた現代の日本の教育者は、一度この本を見て欲しいと思います。

この本には浮世絵だけでなく、江戸の子供たちに関するすぐれた考察がいくつも掲載されています。そのうちのひとつは、僕の好きな小松和彦が江戸のヒーローと妖怪について解説したものです。子供たちがあこがれたのは、金太郎、桃太郎、牛若丸でしたが、やっぱり妖怪も人気があったのです。

そして親子関係について考察しているのが、北山修。僕の世代のカリスマ・グループだったフォーク・クルセーダーズの一員から医師となり、今は九州大学の教授で、日本精神分析学会の会長です。彼はここで、浮世絵の母子像の分析を通して、日本の親子関係が「フェイス・トゥ・フェイス」ではなく、「サイド・バイ・サイド」つまり親と子が肩を並べる関係だと言っているのは興味深いです。彼はそれが母子関係だけでなく、恋人の関係でも、そして日本の舞台芸術や例えば小津安二郎にも見出します。つまり日本では互いに眼を合わせないという関係の中で、母子がそして社会が物語を共有化していく。

そういえば、日本の子供の抱き方は、互いに向かい合う西洋と異なり、同じ方向を向く「おんぶ」であり、背中の子供は母親と同じ視線の方向で物事を学んでいきます。今では日本でも西洋式のやりかたが普通になっていますが、案外それは、日本の共同体を支えていた「しくみ」がひとつ失われたということなのかもしれません。

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