私家版・ユダヤ文化論

内田樹の「私家版・ユダヤ文化論」(文春新書)

内田樹の本を読むのは、「寝ながら学べる構造主義」、「態度が悪くてすみません―内なる「他者」との出会い」に続いて3冊目です。この本で内田は、反ユダヤとは何か、ユダヤ人とは何を意味するのか、そして日本人にとってのユダヤ人とは何か、というような問題をたてます。内田はユダヤ問題が実は政治的な問題ではなく、人間存在に固有の構造的な問題であることを明らかにしていきます。

内田は例によって、フロイト、マルクス、レヴィ=ストロースなどの知見を駆使して構造的な議論をわかりやすい言葉で、時にアクロバチックに展開していきます。その手さばきは熟練した外科医のようで、難しい理屈もシンプルな構造に切り刻んでいく様は見事です。

しかしこの流れのままこの本が終わるのか、といえば実はそうではなくて、最後に彼は師と仰ぐエマニュエル・レヴィナスの言葉を提示します。その瞬間、この本の簡明さは消失し、極めて難解な議論に突入します。レヴィナスはユダヤ人であり、実存主義を背景にした哲学者・倫理学者なのですが、さすがの内田もレヴィナスを切り刻むことは不可能なようです。レヴィナスには、他の思想家のように内田がひとことで表現することができない思想的重層性があるということなのかもしれませんが、僕にははっきりいって神学の領域だと感じました。

最後に神の領域に行ってしまったとは言え、西洋思想の応用問題として刺激的で楽しい本であることは断言できます。

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