辻惟雄の「奇想の江戸挿絵」(集英社新書)
ずっと予約待ちだったのですが、やっと借りることが出来ました。黄表紙から合巻、読本へと続く江戸後期の挿絵について、その魅力を解説したものです。この種の本で重要なのはやっぱり図版ですが、辻はやはり心得たもので、数多くの挿絵を載せてくれました。
浮世絵とは異なり白黒がほとんどなのですが、効果線の使い方など、動きの表現が洗練されており、吹きだしに近い文字表現もあります。江戸の読本が現代の漫画につながるルーツのひとつであることは明らかです。読本の世界でも卓越した技量を示すのが北斎です。構図、技術、奇抜さ、やはりこの人は何をやってもスーパースターだな、と感じました。
洒落や揶揄で人気を博した黄表紙は風紀を乱したという理由で、幕府から弾圧を受け、ストーリー中心の合巻や読本が人気を博するのですが、出版元は相次ぐ幕府の弾圧をかいくぐって出版を続けました。このような制約が結果として様々な表現、スタイルを生み出して、現代の我々を楽しませてくれるわけですから、皮肉なものです。考えてみれば男だけで演じられる歌舞伎のスタイルも、女性の演技者を禁止した「幕府の弾圧のおかげ」なのです。
それを思うと、自分のスタイルの前提として、何をやっても自由、制約なしの現代のアーティストって、独自の表現を見出すことはむしろ難しくなっているのではないでしょうか。江戸の時代のように手鎖の刑に処されることはない反面、自分のスタイルを確立するのは、正直大変だと思いますね。
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