宇宙消失

グレッグ・イーガンの「宇宙消失」(創元SF文庫:1992年)

久しぶりに本格的なSFを読みました。グレッグ・イーガンという人は人間の記憶や意識をナノマシンなどのテクノロジーであやつる、というスタイルが得意らしいです。この本では、そのような人の操作技術が一般的になった2030年代の未来が、リアリティをもって描かれています。

でもこの本の面白さは何と言っても量子力学の奇妙な性質、量子の不確定性の問題に、この作者独自の回答を与えていることです。その問題とは、量子は観測されるまでは、いくつかの状態が重ね合わされた状態で存在するが、一旦観測されるとただひとつの状態に収束するという、ちょっと変な性質です。

これって、観測以前の量子の状態の不可知という単に認識論的な問題のように思えますが、そうではなくて観測以前の量子がいくつかの状態の重ね合わせでないと説明不可能である事実が、いくつも存在するのです。

この量子の状態は数学的には波動関数で記述され、その状態が決定されることを「波動関数の収縮」というのですが、量子力学上の重要な問題とは、「波動関数はいつどのようなメカニズムで収束するのか?」なのであり、これについては未だ決定的な説明というものがありません。

これに対するイーガンの、全く独創的というか、奇想天外な回答が、この小説の核です。

問題は、「収縮問題」を理解していなければ、この小説を楽しむことは難しいということです。そこでこの本の良いところは、最後にとても丁寧な解説があることです。分らないまま最後までたどり着いた人は解説を読んで、そうだったのかといってまた読み直すことになりますが、もう一度読むに値するほど知的な好奇心を刺激してくれる本だと思います。

たまには良質のSFを読むのも良いな、と思い直しました。

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