辻信雄の「岩佐又兵衛 - 浮世絵をつくった男の謎」(文春新書)
岩佐又兵衛が浮世絵をつくった男であるかどうかは、絵画にかかわる分類学上の問題なので、僕にとっては大した問題ではないです。でも又兵衛が浮世絵の先駆的な絵師であることはこの本を読んでなるほど、と思いました。マンガ的な顔立ち、誇張された人物描写。この本が良いところは、まず挿図が豊富で全てカラーだということです。特に又兵衛風と呼ばれる又兵衛の工房が作り出した絵巻群は、その過剰なまでの色使いが持ち味ですから。
絵画史的には又兵衛風の絵巻は、源氏物語絵巻、伴大納言絵巻や鳥獣人物戯画等に代表されるいわゆる「絵巻物」の系列には入らないのだそうです。それはともかく、驚くのは又兵衛およびその工房が生み出した絵巻の長大さです。
「山中常盤物語絵巻」と「堀江物語」が約150m、「浄瑠璃物語」が約130m、「小栗判官」に至っては約324m。全く途方もない長さです。
ちなみにこの本を読み終わった直後、サントリー美術館で開催されていた「KAZARI – 日本美の情熱」展覧会に行って来たのですが、偶然、MOA美術館所蔵の「浄瑠璃物語絵」の一部が展示されていました。この絵巻の特徴は、牛若丸と浄瑠璃姫の悲恋の舞台である御殿の絢爛豪華な色彩、文様にあるのですが、まさに日本の「かざり」文化のひとつの極致だと思いました。特にこれでもかというように細部にまで書き込まれた極彩色の絵画表現は、現代のハイビジョンをはるかに超える表現力があったと思います。
この展覧会はかざりというキーワードで日本文化を切り取っており、展示物の質も高く、とにかく面白かったのです。例えば展示された冑のコレクションなんて、とても粋でおしゃれで、しかもある種の抽象性を獲得しており、このままMOMAに展示しても違和感ないというか、他を圧倒するのではないかと思いました。衣装も面白い展示があったのですが、このブログでも取りあげたあのポップな黒黄羅紗地御神火模様陣羽の実物に出会えたのは、ちょっと感激でした。
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