日本美の構造

日本美の構造/田中日佐夫(講談社現代新書)

図書館で、日本の美に関する本をいくつか借りてきたうちのひとつが、この本です。タイトルにも関わらず、日本の美に関するエッセイ集というような感じの、あまりまとまりのない本でした。でもいくつか面白い論点はありました。

ひとつは、「なぜ日本には神像がないのか」、という疑問です。確かに古代から日本には神を画いた絵画や彫刻がほとんどありません。そのかわりに仏像や僧侶の像には優れた作品が多いです。リアルな神の絵となると、青木繁まで時代が下ることになったりします。

田中はその理由を日本人のアニミズム的な霊への考え方に求めます。つまり肖像に肖像の対象者の霊が吸い取られるので、これを忌諱するということですし、いずれにしろ日本人の生死観が根底にあることは間違いないですし、天皇制の成立過程に関係するような呪術的な事柄でしょう。そういえば金沢の兼六園に、継体天皇の大きな像があったと記憶していますが、あれは日本では例外的なものかもしれませんね。

田中日佐夫は日本美術の装飾的で融合的な性格に対してポジティブな評価をしていないので、読んでいてどうも面白くないです。日本絵画における金・銀の用法に関する論考もありましたが、それも、楽しい分析ではなかったです。この点に関しては今回一緒に借りた、辻惟雄の美術書の方が数段面白そうです。

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