記憶と情動の脳科学

ジェームズ・L・マッガウの「記憶と情動の脳科学」(講談社)

僕は昔から記憶というものに、とても興味があるのですが、最近物覚えが悪くなってきて、さらに興味が増してきました。でもちまたに溢れている記憶術や記憶を高める食物とかの本は、あまり信用してないのです。

記憶の生物学的機能ってたぶん人間として異なるところはないのでしょう。でも人の記憶力や記憶の得意分野が異なるのは、実は世界を認識するやりかたそのものが、人によって結構異なっているのではないか、と思うのです。

そこで、世界的な脳科学者のジェームズ・L・マッガウが書いた記憶に関する本を借りてみました。記憶って脳の様々な部位が関与する複雑な過程なのですけど、この本ではいくつかの歴史的な実験を参照しつつ、記憶のメカニズムを結構分りやすく解説してありました。マッガウは記憶の固定化に薬物の投与が一定の効果があることを発見した人の一人なのですが、あまりに記憶力が良いことはむしろ悲劇であり、忘れることができるのは幸運なのだと繰り返し述べています。

この本で驚異的な記憶力を有する人の悲劇を描いたボルヘスの小説「記憶の人フネス」からの引用があります。「・・(フネスは)一般的な思考がほとんどできなかった・・・考えることは違いを無視し、一般化し、抽象化することだ・・・フネスの肥沃な世界には詳細だけがあった・・・」

マッガウは芸術的な才能に恵まれた人が多いサヴァン症候群について、カレンダー計算能力(過去の任意の日付を言うとその曜日を答えられる)がある人が多いことを考察しています。このカレンダー計算には多くの数学的テクニックが必要とされるのですが、マッガウは、サヴァンが法則を推論し、学習し、記憶し、それらを適用することが(無意識のうちに)できるのだと分析しています。そしてそれは、ある部分の脳部位や処理機能が未発達であることが、非凡な才能の表現に必要とされる脳部位を過剰に発達させることになったのだろうと結論しています。

ということで、芸術的才能の乏しい、物忘れの多い、普通の人でよかったなと思いつつ、一度でいいから、特殊な才能を持って世界を眺めて見たい、と思ったりもしました。

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