謎解き 広重「江戸百」

ここで紹介している本以外にも実は本を結構読んでいるのですが、書く時間がなかったり、あまりにはずれで書くに値しなかったり、あまりにマニアックな本であること等から、ブログに書かないことがあります。

今回読んだ原信田実の『謎解き 広重「江戸百」』(集英社新書)を読み始めてすぐに思い出したのは、「はずれ」の本として書かなかった代表的な一冊、「広重の暗号(ヒロシゲ・コード)―東海道五十三次の謎 」でした。

この「ヒロヒゲ・コード」の方は、(読み始めてすぐに後悔したのですが)、「広重の東海道五十三次」には未来の出来事が暗号となって隠されており、著者が広重が絵の中に隠した暗号(コード)を読み解いていくという内容で、つまりはノストラダムスの大予言とダビンチ・コードを無理やりくっつけたようなトンデモ本だったのです。でも広重ファンの僕としては、「五十三次」の絵が次々に出てくるため、むちゃくちゃなこじつけにはとりあえず目をつむって、結局最後まで読んでしまったのです。

今回読んだ「江戸百」の方は、広重の「名所江戸百景」を題材にとっており、「ヒロヒゲ・コード」と同じく絵に隠されたコードを読み解くというスタイルです。確かに「江戸百」はどこか謎めいた図柄が多く、これまでも様々な言説が行われてきました。でも原信田はこの本で、広重は単に過去に起こった出来事に対応した絵を描いていることを、絵の「改印(あらためいん)=お上の許可印」の日付と江戸の庶民の関心のあった出来事の記録から例証していきます。

その意味ではあまりびっくりさせるような謎解きではないのですが、原信田が広重のあの名高い大写しの近景の構図を広重のメッセージとからめて議論していることは興味深いです。例えば「芝うらの風景」において、広重は安政の大地震で被害の出た浜御庭を題材としているのだけど、わざとこの将軍の施設を遠景にして近景に隅田川に群れる都鳥を描くことにより、「お上」の施設を描きつつも、それを意図的に描いているわけではないというアリバイを作っている。

つまり遠景に興味の対象、近景にここがどこかを示すシンボルを描き、その上で広重のメッセージ(この場合は地震からの復興)を込めているという訳です。

僕は広重は江戸に起こった地震や火災、心中事件などの庶民の関心が高い事件を、お上の追及を受けないような趣向を凝らした上で、単にジャーナリスティックに描いていっただけで、あまり深いメッセージや符丁があったとは実は思わないのです。でも広重の描こうとした対象が実は遠景にあるという点は、十分に説得力があると思います。

絵は完成した時から、作者の手を離れ、様々な解釈が可能な「作品」となります。その意味で、モナリザのようにある人には未来記として、ある人には暗号として、様々な解釈を可能とする広重の「江戸百」は、偉大な作品です。

2件のコメント

  1. お久しぶりです。僕もこの本は読みました。
    特にどうということはなかったのですが、
    この本がきっかけで、東京藝大美術館に
    江戸百景を見に行ったようなものでした。

  2. SKさん

    お久しぶりです。お元気ですか。

    東京藝大美術館はメインの金刀比羅宮の展示はイマイチだったけど、
    同時展示の広重の江戸百は良かったですよね。

    金刀比羅宮展示は特に若冲がダメでしたね。にせものだったし。

    先日、新日曜美術館で金刀比羅の若冲の花丸図がある書院にカメラを
    持ち込んでいましたが、東京で見たにせもの展示と全く違って、やはり
    評判通り素晴らしかったです。

    金刀比羅宮展示は結局、企画と展示方法に問題がありましたね。

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