大江戸歌舞伎はこんなもの

橋本治の「大江戸歌舞伎はこんなもの」(ちくま文庫)を読みました。

橋本は歌舞伎の定式=ルールの解説から始めるのですが、これが絶妙にうまい。例えば、なぜ舞台の間口は三間となっているのか、実際はどれだけの長さなのか、出し物によって舞台の高さが決まっているが、その意味はなんなのか、なぜ最初の幕が三建目から始まるのか、なんてことを歴史的な背景を踏まえて解説していきます。

また江戸の歌舞伎では人々はどのようにチケットを購入したのか、いったいどのくらいの時間上演されていたのか(実は昼間は一日中やっていて幕の間に飲み食いをしていた)、なんてトリビア的なことも教えてくれますが、やはり面白いのは作品の構造的な解説ですね。

歌舞伎に存在するふたつの時制、「時代」と「世話」の区別が絶対的な時間軸ではなく、自分達がいるかどうかで決まる、というような分析もさすがですが、歌舞伎の世界観に対する考察が的確です。

「結局、文化というものはマンネリズムの土壌にしか咲かない」

「江戸で優先されるのはオリジナリティではなく、”なる”、”なっている”という形式化の問題-つまり『型にはまっていること』が重要なのです。」

「アメリカの文化はヨーロッパとおんなじであるくせに、ハリウッドとミュージカルという、ヨーロッパ大陸にはない”異質”な文化を生み出してしまった。江戸の歌舞伎はこれとおんなじです。初めは関西というヨーロッパの影響下にあるけれど、やがてそれは独自のものになっていく。」

「まず、<世界>という根本の設定があります。ここに既知の材料が流し込まれます。それが<趣向>です。一体このステロタイプのどこが面白いかといえば、『前提をステロタイプ化することによって、パラダイムの変換が起こるから』です。江戸の面白がりとは、すべてパラダイムの変換であるといっても過言ではないでしょう。」

橋本治はところどころに彼のイラストを入れており、本人は「申し訳ありません」と言っているが、これが結構しゃれている。この人の才能はちょっとつかみどころがないですね。

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