20世紀絵画

「モダニズム美術史を問い直す」と副題された、宮下誠の「20世紀絵画」(光文社新書)を読みました。

西洋美術の一般の解説書としては、似たような書名だけど高階秀爾の「20世紀美術」がちくま学芸文庫から出ており、これは通史としてすぐれた本だと思うのですが、宮下誠の本の方は、通史という側面よりは彼の独自の解釈というか、作者心理の推理が楽しい本です。

それにもまして面白いのは、様々な作品の解釈の前提として披露される彼の文明観でしょうか。

例えば西洋と日本の作庭法の違いに言及して宮下誠が指摘するのは、西洋においては自然が排除されるべきもの、征服されるべきものであり、破壊の対象であったがゆえに自然保護が必須のものとなった。一方日本においては自然は敵対する存在ではなく、自然の脅威を甘んじて受け、それに自己同一化する傾向がある。つまり自然はいくら壊してもいつか再生するものと幻想されており、それゆえ日本には自然保護の考えが根付かない。このような言説は別に彼の独創の考えではないにしろ、彼の絵画論が文化というコンテキストで語られていることを物語っています。

また、なぜ絵画は四角中に書かれるのか?という問いに対しての彼の答えは以下のようなものです。

「絵画のはじまりのひとつは建築体への装飾である。建築体は四角い形で最も確実に安定する。窓の形状を見ればよい。・・・私たちは窓によって、現代ならテレビの画面によって世界を四角く見るよう強制されているといっても過言ではない。・・・この場合「四角」とは世界の説明原理である。だから絵画とは言うまでもないことだが、およそ人工的な、世界解釈システムの「ひとつ」に過ぎないのである。」

 偉大な絵画は、常に「わかる」ことを拒否し、我々を様々な解釈、印象あるいは思考に導いてくれます。絵画論も簡単な読解を拒む「メタ絵画」として重層的でなければその存在価値はないでしょう。

 その意味で、宮下誠の「20世紀絵画」は十分面白いと言える書物だと思います。

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