南海の太陽児

物語は三浦半島の突端、観音崎の小高い丘の上の白亜の建物に住む主人公の青年の元に、奇怪な旅人が嵐と共に現れるところから始まります。刺客に襲われた旅人が息絶えようとする間際に明かされた、主人公の驚くべき出生の秘密とは・・・。

少年少女小説体系第18巻に収められた横溝正史の「南海の太陽児」は、昭和の始めの時代設定であり、押川春浪からかなり時代は下りますが、南海への冒険、アジアを侵略する邪悪な白人、日本軍の密命、ミュウ大陸の遺跡そして密林の奥の謎の王国と、押川春浪のDNAをいっぱいに受け継いだ物語です。

20年前、蘭領印度(ほぼ今のインドネシアに相当)のセレベス島の辺りで忽然と消息を絶った画家がいた。実はその人物はボルネオ島の密林の奥地に弧絶した日本人の王国を発見、当時その国民に蔓延していた疫病を根絶した後、王女と結婚、その二人の間に生まれたのが、主人公だったという訳です。

日本の戦国時代に日本人が移り住んだその王国には日本の当時の言葉を話す人々が昔ながらの暮らしており、火山と密林で外界から閉ざされたその地には、ヒュウガやアマクサという都市があり、その中心には富士山そっくりの山がそびえ、人々は宇佐八幡を厚く信奉していた・・・。

主人公は謎の王国に迫る危機(もちろん白人の悪巧みによる)を救うため、父親の後を追うように謎の王国に入るのですが、双子の王女の両方から寵愛を受けることになり、その混乱に乗じた敵の逆襲が迫る。そして主人公を助けるのがやはり主人公を思うバリ島からきた女性だった・・・。

ハガードの「ソロモン王の洞窟」の焼き直し的なモチーフも、出てくる女性みんながこの主人公に恋をしてしまうご都合主義の展開も、突っ込みどころはたくさんあるのですが、僕はこの小説に詰め込まれた時代の夢と希望が心地よかったです。

少年少女小説体系各巻は分厚いハードカバーなので、さすがに通勤に持っていくには重すぎたので、自宅で読みました。ちなみに、物語が始まる観音崎の丘の上ですが、作者が想定したと思われる場所には、現在白亜の建物ではなくガラス張りの横須賀美術館が建っています。

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