神は妄想である

「閣下、私はそのような仮説を必要としなかったのです」
  神に言及することなくこの本をどうして書き上げることが出来たのかとナポレオンから問われたラプラス(数学者)の答え

「信仰者の方が懐疑論者よりも幸福であるという事実は、酔っ払いの方が素面の人間よりも幸せだと言う以上の意味はない」
 ジョージ・バーナード・ショー

ここ数年そうなのですが、早めの夏休みをとりました。

仕事以外の時間はほとんど本を読んだりpodcastを聞いたりして、インプット過剰状態になっていたので、しばらくビーチで心身を休めようと考えてたのです。でも旅行の前日にふらっと本屋に立ち寄ったのが運のつきで、このブログではおなじみの生物学者リチャード・ドーキンスの最新刊「神は妄想である」を買ってしまいました。

ドーキンスはこの本で徹底的に、容赦なく宗教の非論理性、欺瞞性を攻撃します。それは別にイスラム教に偏っているわけではなく、ユダヤ教であれキリスト教であれ、一神教的な宗教はことごとくドーキンスの鋭い批判の対象となって行きます。

そしてドーキンスがその明快なロジックで止めをさそうとしているのが、進化論を否定し神が世界を作ったとする原理主義的な世界観であり、ドーキンスの批判の果てに浮かび上がってくるのが米国のキリスト教原理主義とイスラム原理主義の鏡のイメージのような驚くべき類似性(特にその不寛容において)です。

あまり日本で話題になることはありませんが、米国ではインテリジェント・デザインという考え=神が地球を創造した、という考えを信奉する団体が大きな力を持っています。統計によれば米国民の実に90%が聖書の記述が正しいと信じています。つまり旧約聖書のヨシュア記に記されたような他民族の虐殺が、神の御心ゆえ正しいと考えるような信仰的基盤を有する人たちが、90%いるということなのです。

今世界は果たして克服することが可能であるか定かでない二つの大きな危機にあります。ひとつは言うまでもなく、地球温暖化に代表される環境の問題であり、もうひとつが原理主義的宗教の対立です。

既に世界的な栄誉と名声を手にしているドーキンスが、世界中の宗教家を敵に回すことも意に介さず、まるで現代のドンキホーテのように宗教の攻撃へと自らを駆り立てた動機は、原理的宗教の対立がもたらす終末的危機を回避しようとする誠実なものだと僕は思います。

この本570ページもあるのですが、結局旅行先で読み終えました。ビーチで読む本としてはお奨めしませんが、一神教と多神教についてあらためて考えるきっかけを与えてくれました。

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