超・美術館革命

「金沢21世紀美術館の挑戦」と副題が付けられたこの本、人口46万人の金沢市で実に年間138万人という記録的な入場者を集めるに至った秘密が綴られています。

筆者である館長の蓑豊は、美術館はサービス業だと言い切っているところが、すごい。とにかく、入場者を30万人(これだけでもすごい大ぼら吹きだといわれたらしい)集めてみせると言った手前、あの手この手で客寄せに奔走するのですが、そのやり方がユニークだし、理にかなっているのです。

例えば(大人として扱われたい)子供を招待し、さらに子供向けの無料券を配って、次回は両親を連れてくるように仕向けるとか、美術館の建設に関わった全ての人の名前をネームプレートに刻んで、その周辺の人々に来てもらうとか。常にイベントを開催し、レピータを作っていくとか。

でもこの人ビジネスマンではなく、ハーバードの美術史学部で博士号を修めた正真正銘の学者なのです。だから単なる客寄せの技術ではなく、日本の文化、美術を向上させようという意欲に満ちている。

蓑豊の挑戦からは、それゆえ日本の美術館の問題点がいくつも浮かび上がってきます。

・これまでの美術館が箱物行政の典型で、人に来てもらおうという発想がないこと。
・国土交通省が何が何でも自動車道路を作るため町を破壊し、歩く道がなくなってしまったこと。
(金沢の場合、金沢駅から美術館まで街を歩く中で芸術作品に触れられるアートアベニューを構想している)
・学芸員の目標が、最終的に認められて大学の先生になることであって、学芸員というものが尊敬される仕事ではないこと。
・陳列は専門の業者に依頼するため、どこに言ってもどこかで見たような展覧会となること。
(金沢では、陳列は全て学芸員等が自前で行う)

このブログで以前、六本木の国立新美術館を「究極の箱物」と揶揄したことがあるのですが、箱物をいくつ作ってもこの国の文化向上には結びつくはずがないのです。

日本は古来からの美しい文化に満ち溢れているまれな国だと思うのですが、その文化の力が今急速に衰えようとしていると思います。この本は形の上ではサクセスストーリなのですが、いまだに芸術・文化の振興をミッションとする文化省さえないこの国の現状に、鋭く警鐘を鳴らしているのです。

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