聖徳太子の仏法

読書

最近読んだ本 
 ・聖徳太子の仏法/佐藤正英(講談社現代新書)
 ・桜香富士(世界文藝社)

聖徳太子は、日本がその国としてのアイデンティティを確立しようとした時に登場した謎の人物です。

日本書紀には、仏教の伝来、遣隋使の派遣、律令制度への移行など、激動の時代に皇太子として活躍した偉大なる政治家として記述されています。また仏教の発展に寄与した聖人であると共に、生まれながらに言語を発し、一度に10人の訴えを聞き分け、未来を予言できた天才であったとされています。

聖徳太子についてはこれまで様々な謎が指摘されてきました。なぜそこまで絶対的ともいえる信仰の対象となりえたのか、なぜ天皇になれなかったのか、なぜ書記に太子が建立したとされる法隆寺の再建に関する記述がないのか、なぜ太子存命中に太子の等身大像とされる釈迦三尊像の作成が始まったのか・・・。

謎は謎を呼び、これまで太子に関する様々な言説が飛び交ってきました。その中でも有名なのが、僕が古代史に関心を持つきっかけとなった梅原猛の「隠された十字架」です。聖徳太子と法隆寺にまつわる謎そのものを提示したと言う点で、このテキストは古典ともいえる価値があると思います。その後も聖徳太子は実在しなかったという説がいくつもでてくるなど、聖徳太子の研究は自ら隘路に入り込んだ観があります。

「聖徳太子の仏法」は、仏法の聖者としての説話レベルにある日本書紀の太子像から史実を切り出すのではなく、日本書紀の記述を説話そのものとしてあらためて読み直すという意図で書かれたものです。つまりイエスや仏陀が説話を通してその宗教が伝えられたように、聖徳太子仏法が様々なエピソードを通じて民衆に伝わっていったありさまを、ひとつの倫理宗教史として読み解くのです。

謎解きを目的として書かれたものではないので、この本スリリングなところはどこもありません。聖徳太子が、菩薩のひとりとして民衆に受容されていく過程を宗教史的観点から淡々と追っていきます。

聖徳太子にまつわる謎は蘇我氏と中臣(藤原)氏との政治的な対立を抜きにしては語れないのですが、その時に仏法者として民衆の意識にあった太子像が最大限利用されたと考えています。僕にとっては、聖徳太子の謎の解明の前提として、仏法者としての太子の説話的解釈を押さえておく、という意味があったと感じています。まあ、一般的に面白いという本ではなかったですけど。

最近は、図書館に行くと必ず写真集や図鑑の類を借りてきます。「桜香富士」は日本人がこよなく愛してきた美の2大スーパースターである富士と桜を題材にとった、絵画、写真、詩歌を集めた展覧会(チュニジアと静岡で開かれたらしい)の図集です。

図書館の良いところは、こんな大きくて高価な図集を気楽に借りて眺めることが出来ることです。時代的にも古今の作品が収められているのですが、やはり日本って昔から意匠の国だったのだなと思います。
中でも「富士御神火文黒黄羅紗陣羽織」は桃山時代の羽織ですが、そのポップで斬新な富士にはちょっと圧倒されました。

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